85 薬剤師あるある(17)
20年ぶりに認知症の新薬?
認知症は脳の神経細胞が徐々に脱落することによって、脳の処理機能が低下することにより、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出る病気です。
脳の神経細胞を再生し、神経細胞が死ぬのを防ぐ薬はまだ見つかっておらず、今後の研究の進展が待たれるところです。
原因ははっきりとはまだわかっていませんが、「脳に蓄積したアミロイドβの毒性で神経細胞が死滅して脳が委縮し、認知症を発症する」という「アミロイドβ仮説」は、2010年に提唱されて以来、最も有力な説として注目を集めました。
今日におけるアルツハイマー型認知症の新薬開発においても、このアミロイドβ仮説が主流となっています。
神経原繊維変化という現象です。
これは健康な神経細胞にタウたんぱくという物質が絡み合って起こるもので、アミロイドβ同様、不要な物質が溜まることで神経細胞の働きを悪くし、死滅させます。
認知症には以下の4つがあります。
- 物忘れと認知症 うっかり約束の時間や物をどこにしまったか忘れたりすることは、誰しもあるものです。
- アルツハイマー型認知症(約60%) 脳にアミロイドβという物質が沈着して、神経細胞の障害が起こります。
- 血管性認知症(約20%)
- レビー小体型認知症(約10%)
- 前頭側頭葉変性症
脳全体の活動が低下する場合は元気がなくなったり、意欲・やる気がなくなってしまいます。
このような場合には、脳を活性化する薬によって少し気力が回復する可能性があります。
また脳の神経細胞の働きのバランスが崩れると、すぐ怒ったりイライラしたりするような症状になる場合もありますが、このようなケースでは脳の活動を穏やかにしたり、神経活動のバランスを調節する薬が使われます。
実際の患者さんでは、意欲の低下とイライラが混在したりしますので、認知症の薬は数種類の薬を調節しながら服用することになります。
近年、認知症の早期診断と早期治療の重要性が強調されています。
早めに対策をとれば、進行を抑えることができます。
わずかな記憶障害が出た時点から、適切な治療とケアが効果的です。
アルツハイマー病に使う薬は4種類、レヴィー小体型認知症に使う薬が1種類認可されています。
アルツハイマー病やレヴィー小体型認知症の患者さんの脳では、アセチルコリンという神経伝達物質が減少しています。
神経伝達物質とは神経と神経の情報のバトンタッチに必要な物質で、減少すると脳のネットワークがうまく働かなくなってしまいます。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンが分解されないように働き、脳の中でアセチルコリンが減るのを防ぎます。
現在認可されているのは、アリセプト®、レミニール®、イクセロンパッチ®とリバスタッチ®(イクセロンパッチ®とリバスタッチ®は会社が違うだけで同じ薬です)の3種類です。
薬の効果は大きく変わりませんが、ある薬剤が合わなかったり、効果が乏しい場合に他の薬剤に変更するとうまくいくことがあります。
これらは脳を元気にしてくれる薬ですが、空回りしてしまうとイライラや攻撃性、焦燥感などが出ることがあり、その場合は減量もしくは中止したりします。
メマリー®や漢方の抑肝散を併用することで薬を続けられることもあります。
また脈が過度に遅くなることがあるので、もともと脈が遅い方や心臓の病気がある方には注意が必要です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は3種類ありますが、2種類を一緒に飲むことはできません。
たとえばアリセプトとレミニールの併用はできないことになっています。
平成11年に発売され、認知症の薬としては最も古くから使われています。
3mgと5mg、10mgの製剤がありますが、3mgは“慣らし”のための錠剤で、通常は5mg、重症の場合は10mgに増量します。
副作用が強くでる場合は3mgのままで処方する場合もあります。
水がなくても口の中で溶ける口腔内崩壊錠、細粒やドライシロップ剤、ゼリー剤などもあり、ご本人が服薬を嫌がる場合でもうまく飲んでもらえる場合があります。
服用は1日1回で、基本的に朝でも夜でもかまいません。
アルツハイマー病の治療や薬として使われてきましたが、平成26年からはレヴィー小体型認知症の治療薬としても認可されています。
現在レヴィー小体型認知症の薬として認められているのはアリセプト®のみです。
レミニール®
平成23年に発売され、アルツハイマー病の治療薬として使用されています。
普通の錠剤のほか、口腔内崩壊錠、内用液があります。
錠剤と口腔内崩壊錠は4mg、8mg、12mgがあり、内用液は1mL (4mg)、2mL (8mg)、3mL (12mg)があります。
朝と夜に1日2回飲む薬で、4mgを2回飲む量からはじめ、最大で12mgを1日2回(1日量 24mg)まで増量できます。
イクセロンパッチ®・リバスタッチ®
この2つは会社が違うだけで同じ薬です。
レミニール®と同じく、平成23年から販売されています。
適応はアルツハイマー病です。他の薬剤と違って、貼付剤(貼り薬)であることが特徴です。
薬を飲むことを嫌がる方でも、貼り薬だとうまくいく場合があります。
またアリセプト®やレミニール®が吐き気のために飲めない場合でもイクセロンパッチ®、リバスタッチ®を使うと継続できることがあります。
4.5mg、9mg、13.5mg、18mgのものがあり、徐々に増量していきます。
貼り薬のため、かぶれる人がありますが、貼る場所を変更したり、ステロイドのローションを少量塗っておくことで貼付を続けられる場合があります。
NMDA受容体拮抗薬
メマリー®
レミニール®などと同じく、平成23年から使われているアルツハイマー病の薬です。
現在のところメマリー®という薬のみがこのNMDA受容体拮抗薬として発売されています。NMDA受容体というのは、グルタミン酸という神経伝達物質の受け皿ですが、アルツハイマー病では脳の中でグルタミン酸の働きが乱れ、神経細胞が障害されたり神経の情報が障害されたりします。
メマリー®はグルタミンの働きを抑えることにより、神経伝達を整えたり、神経細胞を保護する可能性があります。
メマリーのよいところは、患者さんのイライラした感情を抑え、気持ちをおだやかにしてくれる働きがあることです。
患者さんの感情が安定すると、介護する方にも余裕が生まれ、意思疎通が良好となり、認知機能の改善も期待されます。
ただおだやかになりすぎても、逆に活気がなくなったりすることもあり、その場合は減量や中止が必要になります。
また腎臓が悪い方は薬が身体から抜けにくいため、はじめから減量して使用します。
最近、米バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマーの新薬が20年ぶりに米食品医薬品局(FDA)によって条件付きで迅速承認されました。
この「アデュカヌマブ」という薬は、脳の中に蓄積したアミロイドβやタウタンパクを取り除く(掃除してくれる)ことで認知機能の低下(悪化)を抑えることができると期待されています。
が、神経細胞のダメージを回復させることはできません。
ですから、これらが蓄積する前に取り除くために開発された薬です。
有効性が不確実だと2019年に1度臨床試験が中止された経緯を持つ薬ですので、まだまだ日本での承認は時間がかかりそうです。
では今日も1日前向きに!!