66 薬剤師あるある(8)
アポトーシス(apoptosis)
Official髭男dismの新曲「アポトーシス」を初めて聴いた時は、音楽の複雑さに耳を奪われ、歌詞があまり頭に入りませんでしたが、よくよく聴いてみると、「死」について歌っていることが分かりました。
アポトーシスとは?
個体の組織の成長の過程で、プログラム化された細胞死のことを言います。
自然現象なので、私たちは常にそれを見ているのに、気づかないのではないでしょうか?
ちなみに事故による細胞死のことを壊死(ネクローシス)と言います。
アポトーシスの語源は、ギリシャ語の apo (離れて) ptosis(下降)に由来しているそうです。
自然に枯れて落ちる落ち葉を想像してみてください。
アポトーシスの過程は遺伝子によって制御されていて、生体内の細胞環境のホメオスタシス(恒常性)を維持する重要なメカニズムなのです。
私たちの身体には、体外環境がどんなに変化しても、体内環境を一定に維持しようとする仕組み(ホメオスタシス)がもともと備わっています。
細胞は常にホメオスタシスとアポトーシスを繰り返しながら全体を維持しているのです。
約60兆個の細胞からできている私たち人間は、やはりホメオスタシスとアポトーシスを繰り返しながら生きていると言えますね。
例えば皮膚は約28日周期で入れ替わると言われています。
ところが、脳の神経細胞は、記憶などの機能とつながっているために古くなったからと言って簡単に置き換えることができません。
何十年も生き続けて、死んだらほとんど再生されないそうです。
認知症とは、脳の神経細胞が破壊されて、減少するのですが、決して再生することはないと言われています。
東京理科大学薬学部教授の田沼靖一さんによると、アポトーシスの特徴は「きれいに死ぬこと」だという。
細胞の中身が漏れないのです。
だから炎症が起きず、痛みもありません。
この「きれいに死ぬこと」は、1972年オーストラリアのジョン・カーらが顕微鏡で細胞を観察していて偶然見つけたそうです。
「細胞はもしかして自発的に死んでいるのではないか。これはDNAが指令を出しているのではないか」と考えました。
そしてこれをアポトーシス(apoptosis)と名付けました。
細胞の自発的な死=アポトーシスを観察すると、細胞が死んでいくとき、自らの生命の素であるDNAをきちんと切断していることがわかりました。
とすると、アポトーシスの本質は「DNAを切断して、消去する」ということになります。
すごい!!シュレッダーにかけているのですね。
がんはまさにこのアポトーシスを狂わせてきれいに死ぬどころか、どんどん細胞を増やしてしまう病気です。
またアルツハイマーは反対にものすごいスピードで細胞を死に追いやる病気です。
ですから本来のアポトーシスを思い出させたり、うまく制御したりする薬が必要になります。
人間の細胞分裂は50回程度が限界とされ、これを「ヘイフリック限界」と称します。
分裂ができなくなった細胞はやがて死(アポトーシス)を迎え、これを「細胞老化」と称します。
老化が早い、遅いには個人差があり、まだ良くわかっていないのですが、細胞老化で細胞数が減り、臓器や組織を維持できなくなって人間という個体の死(老衰)に至ると考えられています。
ですから、老衰はとてもきれいな死なのです。
このように人間の死をアポトーシスというメカニズムを通してみると、人間には不老不死はありえないだろうと思われてしようがないのです。
そしてなぜこのようなメカニズムがもともと人間に備わっているのか?を考える時、死があるから生があり、不完全であるからこそ、何とかして生き残ろう、種を存続させようとする力を感じざるを得ません。
以前ブログ14で、人間はなぜ不老不死ではいけないのか?について書きました。
死があるから、今を懸命に生きることができると書きました。
死は必然、生は偶然なのです。
それにしてもOfficial髭男dismの楽曲はいつも心奪われます。
では今日も1日前向きに!!