42 人類みな仲良く
人間が他の動物と唯一違うところは、脳が発達しているところだそうです。
人間以外の動物は生き抜くために他の種族を殺すことはあります。
しかし、同じ種族の中での争いでお互いが傷つくことはあっても決して相手を殺すようなことはないのだそうです。
同種族の争いは、トーナメントのようなもので、順位づけで満足していて、最後の最後まで雌雄を決するような馬鹿なことはしないものです。
もしそれが行われてしまっていたら、とっくの昔にあらゆる動物は絶滅していたでしょう。
ところが、人間は争いでお互いに「殺し」をやっています。
なぜ人間だけが動物がやらない「殺し」をやるのでしょうか?
悲しい現実ではありますが、私たち人間の脳に「殺し屋」の血潮をたぎらす仕組みが備わっているからです。
ずいぶん前の本ですが、時実利彦先生の「脳と人間」の中からの抜粋です。
脳の構造は原理的には極めて簡単です。
中心の軸に脳幹があり、これを2枚の大脳皮質という薄い層が取り巻いています。
私たちのもろもろの精神を生み出す脳細胞はこの2枚の大脳皮質の中にぎっしりつめられています。
内側のを「古い皮質」、外側のを「新しい皮質」と呼びましょう。
脳幹は人間の命を保証してくれる部分です。
「古い皮質」は食欲・性欲・集団欲があり、たくましく生きてゆくための、いわゆる本能と言われる部分です。
これだけでは、争いが起きても、すぐに相手の手の内を読み取って、相手が強いことがわかると直ちに恐れをいだいて引き下がらせる仕組みがあります。
この知恵のある仕組みが「古い皮質」だけで行動している動物をして「たくましく」生きてゆかせながら、「殺し」をさせないゆえんです。
理性・知性のコントロールなしに「殺し」がないのです。
「新しい皮質」では、いろいろな高等な精神が分業的に営まれています。
オデコの奥にある前頭葉という領域とそれ以外の後のほうの領域とに分けると、おおざっぱに言って、後の領域は知の座で前頭葉は情と意の座ということができます。
知の座(知能の座)では、外界から情報を取り入れ、記憶の仕組みによって記銘し、他方では記銘されているものに照らし合わせて、新しく取り入れた情報に意味づけがされている。
つまり、知覚・理解・認識の働き、情報処理の仕組みが営まれています。
情と意の座の前頭葉では、記銘している情報、取り入れた情報を組み合わせ(思考)、足りないものがあると新しく情報を取り入れて新しい内容をくみ上げ(創造)そしてそれを、言葉・表情・動作によって表現しよう(意図)とするのです。
そしてあることをしようとし意図したことがその通りにいったときの喜びの心、失敗したときの悲しみの心をいだきます。
この喜び・悲しみを「情操」と言うが、同じように前頭葉で営まれているのです。
高等な動物の脳にも「新しい皮質」は発達しているが、前頭葉はあります。
私たち人間はこの前頭葉によって人間として振る舞うことができるのです。
人間の個性は、この前頭葉によって作られ、主張されます。
優越感・自負心・競争意識が身についてきて、さらに高まるとそれが征服欲になり、さらには相手を消してしまう「殺し屋」の血潮をたぎらせることになるのです。
これは人間だけが持つ悲しい宿命と言っていいのではないでしょうか。
だから、人間は高度な文明を作り上げてきたのですが、この「殺し」をなくすのは簡単で、前頭葉の働きを喪失すればいいのですが、そのとたん、私たちは文明を失い、個性のない昆虫に化してしまうのです。
その一方で、「古い皮質」の集団欲によって、人間は無性に集団生活をしようとします。
その集団の中で、自分をどこまでも主張し、あげくの果てに相手を殺してしまおうとまでするのですから、私たち人間は、何たる矛盾な、非合理な存在なのでしょうね。
だから人間はこの非合理を調整し、調和させて、人間はどのように生きていくべきか
という理想像をたゆまず追求し、そこに知恵を働かせながら、お互いが生きがいを感じて生きているのです。
それは歴史が教えてくれています。
集団の中で一人一人が勝手に自分を主張して起こる混乱を避けるために、集団の中でルールを定め、お互いにそれを守ろうとしてきました。
それが文明社会の風習・道徳・法律となってきたのです。
しかし、ルールを守るためには、相手を認めなければなりませ。
ところが前頭葉は相手を消そうとしています。
これの解決方法の一つとして宗教の力が必要でしょう。
そして、人種、言葉、風習、皮膚の色などの違いを超越して、ただ黙々と私たちの命を保証してくれる脳幹、これだけはお互いに文句なしに認めあえるのではないでしょうか。
この「命の尊重」が、集団の中で生きる上で、最も大事なのではないかと思うのです。
「古い皮質」の食欲・性欲・集団欲を常に監視しているのが、「新しい皮質」の知性・理性なのですが、この抑圧があまりに強いと、「古い皮質」の活力は衰え、ノイローゼになってしまいます。
こうなると「新しい皮質」の活動性も悪くなってきます。ですから、時々「古い皮質」をその抑圧から解放してあげなければなりません。
それには、睡眠・飲酒・踊ること(リズム)・運動することなどがあり、特に睡眠を取らないと、脳はたちまちに弱ってしまう性質があり、寝ることの大切さを強調したいと思います。
SNSなどで、なくならない「ヘイトスピーチ」はまさに人種の違いを認めることができない人による「殺し」です。
相手の立場に立つことができない人達は、きっと成長過程で正常な大脳皮質が作られなかったのでしょう。
幼児の成長を観察していると、この大脳皮質が段々とできてくる様子がわかります。
古い皮質は最初からあるものなので、どのように新しい皮質ができていくのかは、とても面白いです。
全世界的なコロナ禍で、今まさに、言葉、風習、皮膚の色などの違いを超越して、命の尊重の大切さを痛感しています。
人類が争っている場合ではありません。
自分と同じように相手の命を尊重し、人間の宿命を乗り越えて、手と手を携えてこの危機を乗り越えるための知恵を働かそうではありませんか!!
では今日も1日前向きに!!