79 エナジーム(2)
言葉のおもしろさ
先日、言語学者 川添愛 著「言語学バーリ・トゥード」を読みました。
そもそも言語学者とは?
一般の人は誤解しているというのである。
言語学者なんだから、正しい言葉の使い方を知っているだろう。
言語学者なんだから、バイリンガルどころか世界中の言語に長けているんだろう。
著者は言語学者の中でも研究対象が「日本語」で、日本語が専門です!と言っておけば多言語には堪能でないことはわかってもらえても、言葉のセンスがあり、キャッチコピーがうまいだろう(植物学者はみんなフラワーアレンジメントのセンスがあると言われるのと同じで、ナンセンス)、とか正しい日本語の使い方を研究していると思われがちだというのです。
言語学の研究対象は、正しい言語使用だけではなく、著者が取り組んできたのは、「理論言語学」中でも日本語の文法および意味理解の研究だそうで、日本語はこうでなければならない!と押し付けられる規範ではなく、私たちが普段言葉を使う際に頭の中で動かしている仕組みのことだというのです。
言葉を「自然現象」としてみるので、そこには「正しい」も「間違っている」もない、というのです。
このバーリ・トゥードとは、もともとはポルトガル語の「何でもあり」という意味ですが、ルールや反則を最小限にした総合格闘技のことだそうです。
言葉を「自然現象」と見るならば、了解を意味する「り」、パーリーピーポー(Party People)の略「パリピ」、タピオカドリンクを飲む「タピる」、「とりあえずまあ」の略語「とりま」のように言葉を短縮したり、「……って感じ」,「……とか」や「……じゃない?」のような語尾上げ、「……っす」「……っすか?」という新語を敬語として使うなどの若者言葉の誕生は、たいていシステマチックに起こっていて、言葉というシステムに対して貴重な示唆を与えてくれるそうです。
この本の中で、とても興味深かったことは、言葉の意味と意図は違う場合があるということです。
例えば、「熱湯コマーシャル」でおなじみの、ダチョウ倶楽部・上島竜兵氏の
「絶対に押すなよ!」は、「押せ!」という意図であることはみんなが承知していることですね。
ここでは、「絶対に押すなよ!」と言う言葉の「意味」とは裏腹に、その「意図」は「押せ!」
であるように、正反対になることもあるというのです。このような「意味」と「意図」のず
れは日常的にあることで、わたしたちをしばしば悩ませるものです。
有名な京都人の話で、客人に対して、「ぶぶ漬でもどうどす?」は「早くお帰りください。」を意図しているという話は、本当かどうかは別にしても、この「意味」と「意図」のずれを端的に表しているのではないでしょうか?
人間というのは、本当に素晴らしいと思うのです。
人間は、この「意味」と「意図」のずれをどんなシチュエーションでも理解できる脳を持っています。
私たちの脳内では、意図理解のための暗黙の処理が働いているのです。
例えば、これをAIでできるか?と言われれば、不可能ではないにしても、どれだけの膨大な情報を使用しなくてはならないでしょうか。
「絶対に押すなよ!」と竜兵氏が発したとき、AIが竜兵氏を熱湯風呂に押して落とすことはできても、それを竜兵氏ではなくほかの人がネタをパクッテしたとき、もしくは、熱湯風呂でなくクリームパイを目の前に置いた時、AIに適切に判断させるには、より複雑な知識と判断がAIに必要になるでしょう。
AIがどこまでできるのか?などの話題は著者の『自動人形の城』を読むと面白いかもしれません。
例えば、「おじいさんの時計」の歌詞の中に、「今はもう動かないおじいさんの時計」があるが、この歌詞を聞いて、大多数の人は「動かないのはおじい・・・いやいや、やっぱり時計の方だよね、うん」と良識的な解釈ができるのも、歌のテーマや雰囲気を考慮して、作者の意図を推測するからです。
AIにとっての問題は、「意図を特定するための手がかりが、言葉そのものの意味の中には入っていない」ということです。
つまり、AIにいくら言葉そのものの意味を教えてもそれだけでは意図をきちんと推測するためには不十分で、あいまいな文から相手の意図を推測するときは、常識だったり、その場面や相手の文化に関する知識だったり、それまでの文脈だったりするのです。
そういった広い意味での「取り決め」を話し手と聞き手の間で共有していなければ、意図の伝達は成り立たないということなのです。
著者の、このような深い言葉に対する考察を読むと、私たちはなんと贅沢な毎日を過ごしているのだろうと思います。
脳の一部が損傷したり、認知症になったりすると、このような脳の中で起こっている暗黙の処理がどれだけ緻密なことなのかが、わかります。
人間の脳がAIにとってかわることは不可能でしょうし、可能にする必要もないのではないでしょうか?
では今日も1日前向きに!!
78 エナジーム(1)
ポジティブシンキング
乳がんのステージⅣと診断されてから、あっという間に丸3年が経過しました。
なぜあっという間かと言うと、最初の2年間はひっきりなしに通院があり、治療もいろいろと変わり、考えている暇がなかったからです。
点滴治療(標的抗がん剤治療)を終了してから9か月、終了してよいのかどうか?迷いましたが、今はその決断は良かったと思っています。
74・75で書いたように、がんはまだまだわからない部分が大きいので、最小限の治療をし、後は自然に生活することを選択してよかったと思っています。
まだ抗女性ホルモン剤の服薬は続けていますが・・・これはがん細胞を直接刺激するのではないので、いいかな?と思っています。
「エナジーム」という言葉は私の考えた造語です。何か前向きになれる話をしたいと思って、この言葉を造りました。
「エナジー コラム(元気になるコラム)」という意味です。
私が驚いたこと、楽しいと思えること、目からうろこが落ちた話などを書くことによって、読んでいる方々が少しでも楽しい気持ちになったり、明日へのエネルギーとなってくれることを望んでいます。そんな大げさな話ではないですが・・・。
私はブログの最後に、いつも前向きに!!という言葉を書いています。
そしてブログのタイトルは「一寸先は闇がいい」です。
一寸先は闇がいい、なんて、あんたのへそ曲がってんじゃないの?
と自分に突っ込みを入れたくなるようなタイトルですが、いつも私は逆境でしか役に立たない人間だと思っているのです。逆境でない時は、無駄に力を使ってしまって余計なことを考えたり、行動するので、周りに迷惑をかけることが多いからです。
いわゆる、じっとしていられない多動性症候群です。
強風に立ち向かう姿、大好きです。
こうなると必死な感じが出るので、理想は「風に柳」になりたいですが・・・。
じゃなくて
になりたい!!!!
一寸先は闇がいい!と常に思っているのですが、このタイトルを付けるにあたり、山本夏彦さんの「一寸さきはヤミがいい」という本があることを知り、読みました。
山本夏彦(1915~2002)さんは、下町生まれのコラムニストで、「室内」を創刊した方として有名です。
コラムはどれもおしゃれで、ウイットに富んでいて、私はこの人の文章が大好きでした。
大好きな山本夏彦さんの本のタイトルと同じじゃない!!と私はうれしくなりました。
下町生まれ同士のへその曲がり方、同じです。
同じタイトルと言うのもおこがましいので、ひらがな・カタカナ部分を漢字にしたわけです。
一寸先は闇がいい!!は言葉通りに闇が好きなわけではないということです。一寸先はいつも闇だと思って生きていけ!人間はいつか死ぬんだから!という意味が込められています。
明日死ぬ!と思えば、今何をしなければならないか、何をしたいのかが浮き彫りになるはずです。
立ち止まってはいられない、行動あるのみです。
ポジティブシンキング、なんてできないと思っている方が多いと思いますが、特にポジティブにしなきゃ、なんて考えなくていいのです。
一寸先が闇であると思って行動すればいいのです。考えている暇なんかありませんから!!
私はがんのステージⅣのことは忘れるようにしています。と言うか忘れています。
それよりもやりたいことがたくさんあるし、死ぬ前にしておかなければならないこともたくさんあります。
若くても年を取っても、やりたいことはあるはずです。
まずは行動しましょう。
今後はこのシリーズで面白い話をしていきたいと思っています。
では、明日も1日前向きに!!
77 薬剤師あるある(15)
めまい・耳鳴り
めまいとは?
自分自身または周囲が動いていないにもかかわらず、動いているという違和感を覚える状態のことを言います。
目が回る、目がくらむと言った症状は、多くの人が経験したことがあるでしょう。
めまいにはどんな原因があるのでしょうか?
・乗り物酔い・ストレス・睡眠不足
・耳の病気
・不整脈や全身の病気
・原因不明
めまいを自覚する人の数は年々増加傾向にあります。
男性より女性の方が多く、男性が高齢になるほど増えるのに対して、女性はどの年齢でも増えています。
では、身体のバランスを保つ仕組みとは?
・目からの情報・・・平衡感覚(水平や垂直の方向や自分がどのように動いているか)
・耳(内耳)からの情報・・・平衡感覚(身体の回転や傾き)
耳の構造と働き
耳の働きとは、身体のバランスを感じ取る働き(平衡感覚)と音を感じる働き(聴覚)
内耳の三半規管と前庭の耳石で平衡感覚をつかさどっています。
三半規管の中のリンパ液が動くことにより、感覚細胞を動かして頭や身体の動きの向きや速さを感じ取ることができます。
耳石器は頭や身体の傾きや重力のかかり方を感じる取る器官で、耳石が動くことにより、感覚細胞に伝わり、脳に伝わるのです。
三半規管や耳石器の情報は前庭神経によって脳に伝わり、音の情報は蝸牛神経によって脳に伝わり、全身に指令が行き渡ります。
めまいの種類
- 回転性めまい・・・内耳の障害が原因であることが多い
自分の周囲がグルグル回っているように感じる(周囲や天井が一定の方向に流れるように回って見える)
- 浮動性めまい・・・脳の障害が原因であることが多い
雲の上を歩いているようにフワフワと不安定に感じる(体が宙に浮いているような感じ。目の前の景色が揺れて見える)
- 平衡失調
歩いている時につまづきやすくなる。まっすぐに歩けず、ふらつく。
倒れそうになる。
- 立ちくらみ(眼前暗黒感)
立ち上がる目の前が暗くなる。クラクラして、意識が遠のく。
症状の起こり方は様々で多くの場合は突然起きるが、特定の体位・動作をしたときだけ起こる場合もあります。
少し休むと治まったり、一度治まっても何度も繰り返したり、何日も症状が続いたり、悪化していく場合もあります。
めまいの起こる仕組み
- 内耳の障害
「メニエール病」
激しい回転性のめまいや耳鳴りなどが起こり、その後も発作を何度も繰り返します。
内リンパ腫と言って、水ぶくれのような状態になります。
原因はストレスが多い。
頭を特定の位置に変えたときにめまいが起こります。
原因は三半規管の中に耳石が入りこむためです。
「突発性難聴」
突然、片側の耳が聞こえにくくなる病気で、めまいを伴うこともある。
はっきりした原因は不明だが、ウィルス感染・内耳の血流障害と言われている。
「外リンパ瘻」
内耳の外リンパ液が中耳に漏れ出し、めまいや難聴が突然起こる病気。
原因はせきやくしゃみ・鼻を強くかむ・ダイビングや登山と考えられている。
そのほか、内耳炎・聴神経腫瘍・ラムゼイ・ハント症候群(耳性帯状疱疹)があります。
- 前庭神経の障害
「前庭神経炎」
前庭神経に炎症が起こり、起き上がれないほどの激しいめまいが現れます。
原因はウィルス感染によって起こると考えられています。
- 脳の障害
「脳血管障害」や「脳腫瘍」は命にかかわる病気なので、要注意!!
手足や口がしびれる・ろれつが回らない・物が二重に見える・意識が薄れる・激しい頭痛は脳の障害からくる神経症状なので、急いで脳神経外科や神経外科に行ってください。
椎骨動脈や脳底動脈の血流循環が悪くなり、一過性脳虚血発作(TIA)の一種でめまいや手足のしびれが現れる病気です。
- その他の病気
頸性めまい・・・首を動かしたときにめまいが起こる(変形性頸椎症・むち打ち症)
自律神経失調症・・・起立性低血圧・起立性調節障害(学童期~思春期の子どもに多い)
更年期障害・・・40歳代後半~50歳代前半の女性に多い
糖尿病・高血圧/低血圧・不整脈・脂質代謝異常/動脈硬化・貧血・肩こりなど
このように、様々な病気が原因となってめまいが起こります。
「首」がめまいと深い関係があると言われています。
また、薬の副作用にめまいもありますので、おかしいなと思ったときは医師や薬剤師に相談してください。
ストレス・不規則な生活リズム・疲労や睡眠不足・度数の合わない眼鏡やコンタクトが原因と言われています。
めまいの問題点は、日常生活に支障をきたすこと、転倒のきっかけとなることです。
早くめまいの原因を調べて、治療することが大切です。
では今日も1日前向きに!!
76 セルフメディケーション
セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と世界保健機関(WHO)は定義しています。
日本では、国民の「健康寿命」延伸がテーマで、薬局を地域に密着した健康情報の拠点として、一般用医薬品等の適正な使用に関する助言や健康に関する相談、情報提供を行うなど、薬局・薬剤師の活用を促進しています。
ですから、消費者は専門家の適切なアドバイスの下、自分の責任においてOTC医薬品などを選び、有効かつ安全に使用する必要があります。
なぜセルフメディケーションを推進しているのでしょうか?
それは日本の保険が破たんしているからです。
自分で治せる軽い病気は自分で治しましょう!というわけです。
そのためにセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)があります。
これは、医療費控除の特例として、健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるものです。
これは通常の医療費控除(病院等)との合算はできず、医療費控除を行っている場合、セルフメディケーション税制は申告できません。
どちらか片方のみ申告ができます。
もし、セルフメディケーション税制を使いたいのなら、今後、ドラッグストア等で医薬品を購入する際に、セルフメディケーション税制対象商品であるかの確認や、レシートの保存を行いましょう。
世帯での年間購入額が1万2000円以上の場合、セルフメディケーション税制の利用が可能です。
※レシートを紛失した場合、店によっては再発行が可能ですので、購入した店舗にご確認ください。
ところで、軽い病気かどうか?誰が判断するのでしょうか?
まずは自己判断せずに、薬局で薬剤師に相談しましょう。
きっと良いアドバイス(医療機関を受診したほうが良いかどうか?)をもらえると思います。
薬剤師は、「トリアージ」と言って、医療機関への受診が必要か?求めているOTC薬品でよいのか?他のOTC薬品や対処方法があるかどうか?と言うアドバイスをしてくれるはずです。
そのためにも、かかりつけ薬局を持っておいたほうがいいです。
かかりつけ薬局ではその方の薬の使用の歴史や、生活習慣などを配慮して、適切なカウンセリングを実施することができます。
『頭痛』
頭痛には下記の2種類があります。
基礎疾患のない頭痛(頭痛の90%で、緊張型頭痛・片頭痛があります)
基礎疾患のある頭痛
このうち、セルフメディケーション可能な頭痛には下記の2種類です。
・緊張型頭痛
・片頭痛(偏頭痛)
緊張型頭痛とは、頭全体がしめつけられるような痛みがあり、その強さは比較的軽症~中程度。首や肩の凝りを伴うことが多く、マッサージや運動による悪化はなく、予兆や前兆がないことがほとんどです。
片頭痛とは、脈に合わせて「ズキン、ズキン」という、中程度からかなり強い痛みがあります。
マッサージや運動で悪化します。吐き気や嘔吐、光や音に敏感になることが多いです。
予兆・前兆として約3割に『閃輝暗点(せんきあんてん)』と言い、視野の中心にきらきらした光が見え、次第にその周辺のギザギザした光が大きくなり、その内側が見えなくなる現象が起こります。
また、頭の片側だけに起こることが多いので、片頭痛も偏頭痛も間違えではありません。
そして
・多少我慢でき、仕事や家事などは何とかできる。
・頭痛の持続が10日未満。
・鎮痛薬の使用が毎週2日以内、または月に延べ9日以下のものです。
激しい痛みがあったり、慢性化したものは対象ではありません。
最近、片頭痛の予防薬として新薬が出ましたのでお困りの方はDrにご相談下さい。
基礎疾患のある頭痛
・今まで経験したことのないよう頭痛
・突然起こる激しい頭痛
・麻痺やしびれ、ろれつが回らない・ものが二重に見える・意識がおかしい等の神経症状を伴い頭痛
・事故または頭部外傷
・高熱を伴う頭痛
・50歳以降に初発、または、5歳未満の小児
疾患名として
- くも膜下出血:頭に雷が落ちたような痛み、などと言える、経験したことのない頭痛。
- 脳内出血:突然の頭痛・吐き気・嘔吐・ろれつが回らない・手足のしびれや麻痺などが見られる。(高齢者・事故・頭部外傷など)
- 脳腫瘍:頭重感や鈍痛が急に強くなり、嘔吐・けいれん発作などが見られる。
- 髄膜炎:発熱・吐き気・食欲がないなどの症状(5歳未満の小児の感冒・副鼻腔炎・中耳炎などが悪化して髄膜炎になることが多い)
鎮痛薬の使いすぎ
3か月以上の期間、定期的に1か月間で10日以上、同じ鎮痛薬を服用しているのは、薬物乱用頭痛になります。
服用していた鎮痛薬を中止し、改善することがありますが、中止期間中に発生する頭痛への対応は医師のサポートが必要になるので、早めに受診しましょう。
カフェインの摂り過ぎ
1日200mg以上のカフェインを2週間を超えて摂取し続けたあと、次のカフェイン摂取までに間隔があいた場合に生じる頭痛のことです。
これをカフェイン離脱頭痛と言います。
カフェインは多くのOTC医薬品やコーヒー・紅茶・栄養ドリンクにも含まれています(コーヒー1杯50mg~100mg)ので、知らず知らずのうちに重複摂取していることもあります。
カフェインの量には充分注意しましょう。
次回はOTC薬の頭痛薬についてお話します。
では、今日も1日前向きに!!
75 「がん」との付き合い方(2)
前回の続きです。
では、何もしないのが最善の治療なのか?
「エコ・エボ」指標
エコ=生態のことで、がんの発生している環境のことを意味しています。
・がん細胞の生息地は栄養豊富か?栄養の少ない不毛の地か?
・免疫細胞の見回りが厳しいのか?
・正常細胞との競争が激しいのか?
・不良細胞が生きやすい有毒な環境か?
エボ=進化のこと。
・がん細胞内に大きな変異パッチが数個あるだけなのか?
・がん細胞内に小さな変異パッチが大量にあるのか?
変異パッチ:がん細胞は、1つの細胞で成立しているわけではなく、変異した細胞集団のパッチワークになっていることがわかっている。
この細胞集団はそのままであればがんにならないが、染色体に異常が発生するとがんになりうる。
というわけで、がん細胞がどれだけ早く進化しているか?生息地でどれほど勢いよく育っているのか?を見極める指標であり、この指標を使って、がんを16のタイプに分類することができた。
点数の低い腫瘍は、資源が少なく多様性に乏しい砂漠のような環境にあるため、進化も繁栄も起こらないもので、1つか2つの標的療法をする。
点数の中間の腫瘍は、正常細胞と共存しているため、正しい順序で正しい選択圧を慎重に与えるか、もしくは免疫療法をする。
点数の高い腫瘍は、多様な細胞集団が、勢力図を常に書き換えていて、出現しては免疫細胞に攻撃されて消されている状態なので、適応療法で長期的コントロールするか、有毒な環境を改善してがん細胞にとって住みにくい生息地にする「エコ療法」を用いる。
適応療法:庭の手入れをすると考える。常に生えてくる雑草を抜いて、きれいな庭を維持する方法。
チャールズ・ダーウィンの「種の起源」の中で、
新種の出現(種の起源)は生物が選択圧に直面して適応と変化を迫られたことによる。
と1859年に発表していたのですから、結局がんも同じことが言えると今頃分かったようです。自然選択、進化論は本当にすごい発見だったと思います。
昨今のように、晩婚化、高齢出産が続けば、私たちが生きている時代は無理でしょうが、人間は高齢でも出産できる、100歳以上生きられるように進化するかもしれませんね。
なぜって、子孫を残し、子育てしている間はがんにならないはずですからね。
私はステージⅣの乳がんと診断されて、抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)による治療、手術、放射線、標的薬による治療を終了して、このブログを書き始めたときに、がんは戦える病気、標準治療は絶対にやるべき、と声高に言いましたが、今、がん研究は、抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)や放射線によるがん細胞への選択圧も考慮する時代になっています。
私は幸いにも3年の間、再発せずに生きることができています。
そして今、がんであることを忘れてしまうほどです。
今後の治療は、標的療法・免疫療法・適応療法が主流になることでしょう。
そして、「がんですか、それなら付き合い方はわかっています!!」と誰もが言える時代になっていくと思います。
がんは長期的にコントロールできる病気になりつつあります。
恐れることなく、気長に頑張りましょう。
そして長期的な病気なら、いつ再発する?と心配せずに、心穏やかに、楽しい人生を送りましょう。
心理的な面も今後はとても大事になってくるでしょうからね。
いくら長く生きられるようになっても、生物は必ず死にます。
死があるから、生きられるのではないでしょうか?
では明日も1日前向きに!!
74 「がん」との付き合い方(1)
進化が生んだ怪物
キャット・アーニー著
ヒトはなぜ「がん」になるのかー進化が生んだ怪物―
を読み終えて、今までがんはどのような研究がなされてきたのか、また現在のがん研究がどのようになっているのかを知りました。
がんは他の病気と同じように、完治はできなくても、長く付き合っていける病気になるだろうと思います。
染色体は、細胞の中にあって複数の遺伝子が記録されている構造体です。
遺伝子は染色体内にあり、染色体は主に細胞の核にあります。
1本の染色体には数百から数千の遺伝子が含まれています。
人間のすべての細胞には23対(計46本)の染色体が入っています。
通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方を父親から受け継ぎます。
23番目の対が性染色体です(XまたはY)。Xは女性、Yは男性です。
DNAとは「デオキシリボ核酸」を略したものです。
DNAはヒトで言えば、60兆個にも及ぶすべての細胞に存在し、DNAの情報に基づいて体の細胞、器官、臓器が作られていくため、「体の設計図」とも表現されます。
ゲノム解析とはヒト染色体の遺伝情報(DNA配列)を読みとり、染色体のどこにどんな役割の遺伝子が存在するかを明らかにすることです。
「この50年、あまりにも遺伝子に偏った研究が続いたため、人体を機械のように見たり、細胞の中の遺伝子と分子を電子回路かコンピューター・コードの構造要素のように見たりする傾向が定着してしまった。
生物学のすべてが、進化の視点なしに意味をなさないように、がんのすべてもまた進化の視点なしには意味をなさない。このシンプルかつ厳然たる事実を認めないことが、進行転移がんの予後がほとんど改善しない理由だ。」
1953年のDNAの二重らせん構造の発見から50周年となる2003年4月、ヒトゲノムの解読終了が宣言された。ヒトゲノム計画の成果は基本設計図を手にしたという点で非常に大事だった。でも、それはゲノム研究の全容からいえば、“とっかかり”ができたというだけ。
「がんは人間だけがなる現代病ではなく、生物の基本システムに最初から組み込まれた“バグ”であると言える。
したがって、すべての生物はがんになる。
がんのルーツをたどると、地球上に初めて多細胞生物が誕生した時点に行きつく。
そしてその多細胞生物の共同社会が、がん細胞を生む土壌になっている。
発がん物質はどこにでもあるし、遺伝や感染症が原因のこともある。
がんを個人の努力で避けることはほぼ不可能です。
このことはもっと世間に知らせるべきです。
がんになったとき、その人の行動や選択を責めるような風潮をなくすためにも。」
「ヒトが生殖年齢に達する前にがんになるようなら、自然選択で淘汰され、ここまで繁栄しなかっただろう。
ヒトのがんの90%が50歳以降に出現するのは、完全に理にかなっている。」
「生物の進化は、以下の①か②のどちらかです。
- 短く危険な数年間のうちにできるだけ多くの子孫を作るよう進化する。
- ゆっくり大きく育って捕食する側に回り、遅くに子孫を産んで、長く子育てするように進化する。
私たちは、人生の最盛期を健康で過ごし、出産と子育てが終わったら不健康になってもいいように進化してきた。」
がんとの戦争・・・と言った考え方は、がんに勝てるかもしれないという幻想を私たちに与えてしまった。
今後は研究者たちが、がんは当初考えていたより複雑だったと発表し、今後のがん研究の方針を変更する勇気を持つことが大事だといっています。
2014年、インスティテュート・オブ・キャンサー・リサーチ(ICR)の『進化とがんの研究センター』設立の趣旨は、次のようなものでした。
自然選択の仕組みを考えれば、耐性の出現は避けられず、進行がんを治すことはできない。
そうであれば、慢性疾患のような状態にし、余命を数カ月ではなく、数年単位に延ばすことを目指したい。
では私たちの最終ゴールって何なのでしょう?
十分に長く生きてから、がんより先に死ぬことだと思いませんか?
生きること=がんになることは表裏一体です。
がんになった人が、20年、30年生き延びることができれば、薬の影響を穏やかにすることや、心理的サポートに重点が移って行くことでしょう。
がんの診断を受けたときに、
「わかりました。がんとの付き合い方なら知っています。」と誰もが答えられるようなそんな日が来ることを願っています。
がんとの付き合い方
- 予防
- 早期発見と悪い細胞かどうかを見分ける検査法の確立
- 長期の治療法
進行がんを長期的にコントロールするカギは、積極的な計画管理にある。
化学療法と標的療法は「進化のるつぼ」と化しているがんに強力な選択圧を与える可能性があり、その両方が原因で悪化することも考えられる。
選択圧:生物種に存在する突然変異を選択して、一定の方向に進化させる現象をいう。この自然の力を選択圧とよぶ。
では、何もしないのが最善の治療なのか?
はっきりしていることは、1つの特効薬でがんを治そうという考え方は、ショットガンでハリケーンを止めるくらい無意味なことだということです。
次回をお楽しみに。
では今日も1日前向きに!!
73 薬剤師あるある(14)
コミュニケーションスキル
薬局にいらっしゃる患者さんは、病気を抱えている方ばかりです。
普通のお店とは違って、買い物に来る方ではないので、楽しい顔をして入っていらっしゃる方は皆無と言っていいと思います。
薬局に入るまでにどんな思いでいらっしゃるのかは、話を伺ってみないとわかりません。
・お医者さんとの会話がどうだったのか?もしかしたら悲しい気持ちで来局しているのか?
・今すぐ服用したい薬があるのか?具合がすごく悪いのか?
・薬がないと断られ、薬局を転々としているのか?
・子どものお迎えが迫っていて焦っているのか?
・本人が来局できず、代理で取りにきているのか?
などと処方箋を受ける私たち薬剤師はいろいろ考えながら対応しています。
前にたくさん患者さんがいる場合は、自分の順番が来るまでにどのくらい時間がかかるかを必ずお伝えします。
今すぐ用意できる薬なのかどうかも素早く答える努力をしています。全部はご用意できなくても、今ある分だけお持ち帰りいただき、どのくらいで不足分が用意できるのかをなるべく早く、正確に答えるようにしています。
何かご用事があって焦っている方には、後で再度来局してもらうようにお伝えしています。
具合の悪い方や、すぐに服用したい方は、優先するよう努力しています。
こういう患者さんと会話するときには、ある程度の(高度の)コミュニケーションスキルがないといけないと常に思っています。
相手を傷つけないのはもちろん、相手が答えられない話を引き出さなくてはならない技術も必要です。
誰もが自分のいいたいことを全て言えるわけではないからです。
特に病気のことになると、話せないこともたくさんあります。
処方箋に何の問題もなければ、私たちも何とか対処できるのですが・・・。
処方箋の問題とは?
- 用量・用法の間違い又は確認
- 併用薬が先生のほうに伝わっていない場合
- 薬品の安全性・有効性を考慮すると調剤に問題がある場合
こういう場合は、病院や医院に電話をして、先生と直接お話する必要があります。
それを疑義照会と言います。
この頃はどんな大きな病院でも、必ず先生と直接お話しできるようになっています。
先生はお忙しい中、わざわざ私たちの電話に出てくださるのですから、私たち薬剤師は、要点を最小で簡潔に話さなくてはなりません。
コミュニケーションスキルは当然高度になってきます。
先生方には、処方箋の問題点が、用法・用量やその確認だけならまだいいのですが、薬の変更や併用薬との関係をお話するときは、問題点と同時に、変更の提案もしなければならないので、電話するまでに時間がかかります。
患者さんにはどういうわけで調剤が完結するまでに時間がかかるのかを説明し、その上、先生に問題点や提案をするときの簡潔な文章を作らなければなりません。何しろ時間は最小限でしなければならないのです。そこで必要になるのは、論理的コミュニケーションです。
ピラミッドのようにピラミッドの下から問題点を徐々にまとめてピラミッドの頂点に結論を明確化しなくてはなりません。
そして先生にお話させていただくときは、ピラミッドの頂点の結論を先に、理由はピラミッドの下に向かって話します。
コミュニケーションで一番大事なのは、相手に「分かった!!」と思ってもらえることです。
なかなかこちらの言うことがわかってもらえないことがたくさんありますが、「分かった!!」と思ってもらえないときは、必ずこちら側に問題があると思っています。
皆様に「分かった!!」と思って頂ける様、日々努力していくつもりです。
薬剤師は「短距離ランナー」とよく言われますが、まさに処方箋をいただいた時からなるべく短時間に、納得いただける結果が出せるよう頑張っています。
では今日も1日前向きに!!