72 車酔い
車酔いのメカニズム
私は小さいころから車酔いをするので、なるべく自分で車を運転することにしています。
なぜか自分で運転して車酔いになった事は一度もないのですから不思議です。
生まれた時から、両親そろって車の免許を持っていて、どこに行くのも車だった上に、毎週日曜日は海や山に連れて行ってもらっていたので、有無も言わさず車に乗らされていました。
海に行くのはまあまあ高低差のない道なのですが、山に行くときは、東京から、なぜか碓氷峠を越して行くことが多かったのです。
碓氷峠はご存知の通り、カーブが全部で45か所あり、ヘアピンカーブも相当あって、車酔いにとっては地獄の峠と私は思っています。
家を出る前には、必ずエチケット袋(当時はビニール袋に新聞紙をたくさん入れたもの)持参で、姉兄たちは私の顔色が青白くなってくるや否や、その袋を出すのです。
両親は峠をゆっくり登れば、私の車酔い被害が少ないのを知っているのに、ヘアピンカーブを楽しむかのように左右に私の身体を揺らせました。
下を向いては行けない!背中を付けるな!などの注意は全く効果がなく、毎回車酔いを起こしました。
食事をしてようがしてまいが、気持ち悪さは変わらず、最後の胃液が出切るまで吐かないとおさまりませんでした。
我が家は18歳になると免許を取りに行く(浪人中は禁止)慣習があり、私も自分で運転したいがためにすぐに教習所に通いました。
以前もブログに書きましたが、昔は仮免許で公道を走ることができました(今の東京では怖すぎますが・・・まだあまり車の混雑がなかった時代)ので、仮免を取ると猛特訓が始まります。
また、運転免許を取得すると最初に遠出させられたのです。
私の時はあんなに嫌がっていた碓氷峠でした。
免許取り立てには難関の道です。
何しろ運転当初から周りに怒られないよう、緊張して気を使っていたので、ヘアピンカーブも何のその、あっという間に峠を越してしまいました。
気が付くと、車酔いしていない!!!!
なんと車の運転は楽しいものだと思いました。
あなたは車酔いをしますか?
18歳以上の大人を対象にアンケートを取ると、とても酔いやすい、たまに酔うは、なんと7割もあり、男女比では圧倒的に女性に多いとされています。
年齢で見ると、小学校高学年くらいから酔う人が増えてきて、中学・高校生でピークに達します。
車酔いの症状はすべて自律神経の異常によって引き起こされるので、自律神経が不安定になる思春期は酔いやすい傾向にあります。
血圧の変動と自律神経の関連がわかっているのですが、女性は血圧が下がりやすいと言われています。
車酔いのメカニズムは
- 目から入る視覚情報と内耳の三半規管・耳石器が感知する加速度の情報にずれが生ずる。
- 情報が快か不快かを判断する偏桃体が、海馬の中にある過去の情報と照らし合わせて、不快と判断する。
- 自律神経が以上に興奮し、車酔いの症状(顔面蒼白、冷や汗、唾液分泌、血圧変動、むかつき、嘔吐など)が生じる。
自分が運転するときは、自分の思った通りに景色が動き、回転や加速の予想ができるので、情報のずれは生じないので、酔うことがないのです。
また、ずれをどのくらい敏感に検知するか、その情報を快・不快と判断するかは個人差があるようです。
対策はいろいろありますが、酔い止めの薬を服用することが、一番です。
車酔いは病気ではなく、体が未知の動きに適応しようとして起こるものなので、成功体験を積んで、慣れることが一番だとのことです。
が、私は誰よりも長く車に乗ってきましたが、未だに慣れることなく、自分が運転しないときは必ずと言ってよいほど酔います!!
経験上では山に登るときの方が酔いやすいです。碓氷峠のような未知の山道ではないのに。車に乗るときは車酔いのことを忘れていることも多いので、精神的なストレスが原因ではないと思いますが、必ず酔います・・・。
では今日も1日前向きに!!
71 薬剤師あるある(12)
スーパーフード(2)
藍藻類に属する螺旋状の微細藻類で、完全なタンパク質(60%がタンパク質)で、8種類の必須アミノ酸を含有し、貴重な栄養源の1つとして世界中で食されてきたという長い歴史を持つ。
スーパーフードの組み合わせとしてベースになる食品と考えられ、食事のバランスが気になる青年・壮年・食の細くなった高齢者に適していると思われます。
1.抗酸化作用
2.血圧調節作用
3.コレステロールの調節
4.血糖コントロール効果
5.アレルギーに対する効果
6.抗ウイルス効果
7.抗癌作用
1日2g~10g(4Kcal/g)
ただし、小児は摂取できません。
光線過敏症の副作用があり、中に含まれるビタミンKが、ワーファリンの働きを弱めるので、摂取しない方が良いと言われています。
スピルリナは粉末でかさばるので、錠剤があるが、凝固剤に化学的な凝固剤を使用していないものを選んだ方が良いでしょう。
マカ
南米ペルーのアンデス山脈に自生し、根菜の一種、アブラナ科の植物で大根やカブと同じ種類。
伝統医療で、人と動物の生殖力を高める薬として長い間利用されてきました。
薬用部分は根で、多価不飽和脂肪酸のマカエン・マカミドには生殖能力の向上や勃起障害の改善に関与していると言われ、ベンジルグルコシノレートは抗疲労作用があります。
黄マカ・赤マカ・黒マカがあり、それぞれ含有成分の強弱があります。
必須アミノ酸8種類を含む18種類のアミノ酸・鉄・・カルシウム・亜鉛などのミネラル、食物繊維、ビタミンなどがバランスよく配合されています。
1 美肌効果
2 更年期障害に夜症状を改善する効果
3 動脈硬化
4 勢力増進効果
1日1.5g~3g
男性には有害事象はありませんが、小児に関しては信頼できる資料はないが、妊娠中や授乳中の女性に関しては通常の量であれば問題ないと言われています。
疲労・不眠・子供がほしい・更年期症状(体内ホルモンバランスの乱れから生じる諸症状)に悩んでいる方にお勧めです。
ウコン
ターメリックのことです。スーパーフードでもあり、漢方薬としても使用されています。
主成分はクルクミンで、これは秋ウコンに多く含まれています。
春ウコンには1/10、紫ウコンには含まれていません。クルクミンは脂溶性のため、油と一緒に利用するときれいな色が引き出されます。
1 消化不良の改善・健胃作用
2 肝機能促進(胆汁分泌促進作用)
4 クルクミンの抗酸化作用
1日1.5g~3g(お茶としては、1日4.5g~9g)
胆のう疾患・胆石・・胃潰瘍・胃酸過多ではない方の食べすぎ、アルコールの飲みすぎの方にお勧めです。
血小板凝集を抑制するために好悪凝固作用を持つハーブや医薬品(ワルファリンなど)との併用は出血傾向が強まる可能性があります。
キントラノオ科ヒイラギトラノオ族の低木常緑樹で、ビタミンCを豊富に含む果実として知られている。
ビタミンC含有量は100gあたり1700mgと高く、βカロチンやビタミンEを含むことから、生体内で効率的に抗酸化作用を発揮すると考えられ、近年スーパーフードの1つとして認知されています。
ビタミンCは体内ではほとんどが還元型のアスコルビン酸として存在し、多くの歩行園補助因子として作用している。
アセロラ果汁に含まれるアスコルビン酸は、体内利用率が薬局方の合成アスコルビン酸の1.63倍高いことが報告されている。
アセロラは痛みが早いデリケートな果実なので、果汁として摂取する。
アセロラのビタミンC含有量は完熟期より早熟期の方が多い。
アセロラはビタミンCとポリフェノールを多く含むので以下の校歌が期待される。
・コラーゲン生成(肌の柔らかさ・乾燥肌・肌ツヤ・シミ、ソバカスに効果大)
・抗酸化作用
・出血傾向改善等
過剰に摂取すると、吐き気・腹部けいれん・倦怠感・不眠・眠気・下痢などが生じる可能性がある。
また、ワーファリンとの併用によって、ワーファリンの抗血小板作用が減じる可能性がある。
また、ビタミンCが豊富なので、食品からの鉄の吸収を促進する可能性があります。
ゴジベリー
枸杞子(クコシ)の愛称でも親しまれているクコの実。
中国薬局方にも収載されている生薬です。
薬膳料理としては腎の気虚に用いる雑炊の具として中国などアジア諸国の家庭で長年食されてきました。
枸杞子(クコシ)はクコの実を乾燥させたもので、そのほか、根皮(地骨皮)、葉(杞子葉)は中国伝統医学でも利用されています。
多糖類はクコ果実に5~8%ほど含まれていて、主要な抗酸化活性成分です。
免疫調整作用や抗ガン活性があります。
ベタインは抗脂肪肝作用や肝保護作用があります。
クコの種子は、近年ではクコジュースの製造過程において副産物として大量に生じるため、クコ種子由来のオイル(クシーズオイル)は抗疲労作用や脂質代謝改善作用があるとして、中国では保健食品として販売されているほか、保湿効果があり、化粧品に配合されている。
クコシーズオイルはリノレン酸やリノール酸のような不飽和脂肪酸です。
ワーファリンとの併用は出血傾向を高めるので注意しなければなりません。
妊婦・授乳婦に対しては積極的な摂取は避けた方がいいです。
カムカム
ペルー原産のフトモモ科の常緑低木で、高さ2~3m程度に成長する。
果実をジャム・ジュースなどにするほか、葉が利用されます。
カムカムの特徴は、果実のビタミンCの含有量の高さと抗酸化活性です。
アマゾン産のものはブラジル産よりもビタミンC含有量が多いことが知られている。
大西洋沿岸地帯原産のアブラナ科の栽培植物で、スーパースプラウトは発芽3~4日のものをさし、最もスルフォラファンの含有量が多いとされています。
スルフォラファンは辛み成分で、イソチオシアネートの一種。
植物中では通常グルコシノレートの形(グルコラファン)で貯蔵されているが、咀嚼することや腸内細菌により、ミロシナーゼという酵素に接触してスルフォラファンが生成されます。
- 抗酸化作用
- がん細胞増殖抑制
- 解毒作用
- 消化管に対する作用
- うつ様症状の改善、ストレス耐性
- メラニン再生抑制
統合失調症の認知機能障害を一部改善するという報告があります。
自閉症症状の改善やピロリ菌量の減少と言った報告もありますが、人を対象にした研究が少ないようです。
ストレスの多い社会なので、健康増進と予防のために日常サラダとして摂取することをお勧めします。
では、今日も1日前向きに!!
70 薬剤師あるある(11)
スーパーフード(1)
日本ではなじみの薄いスーパーフードですが、欧米ではかなりの商品があり、摂取されているのに驚いています。
病院や施設で積極的に摂取されているようです。
アメリカで取り入れられた「オーソモレキュラー療法」は、日本では「分子整合栄養学」と訳されています。
栄養素(適切な食事やサプリメント・点滴・糖質コントロール)を用いて身体を構成する約60兆個の細胞の働きを向上させる治療法です。
薬を使わずに、身体の働きに注目する治療法ですが、その1つとしてスーパーフードがあります。
スーパーフードとは?
・栄養バランスに優れ、一般的な食品より栄養価が高い食品であること。あるいはある一部の栄養・健康成分が突出して多く含まれる食品であること。
・一般的な食品とサプリメントの中間にくるような存在で、料理の食材としての用途と健康食品としての用途をあわせもつ。
日本ではもともと雑穀や発酵調味料(味噌・醬油・酢・みりん)・納豆・ぬかずけ・甘酒・日本酒などはジャパニーズスーパーフードと言われています。
ここでは、スーパーフードの中でも「プライマリースーパーフード10」、スーパーフードを代表するものとして認知されているもので、日本スーパーフード協会がとくに重要と考えて、優先的に国内で推奨するスーパーフードについて話します。
・スピルリナ ・マカ ・クコの実(ゴジベリー) ・カカオ
スーパーフードの特徴は、
- 天然物なので、他の成分も含んでいる。
- 人間のホメオスタシス(66に書いたように恒常性)を保つ作用機序を持つ。
- 多くは植物なので、取れる場所や気候でばらつきがある。
- 薬効はわかっているが、天然物なので、他の作用がある可能性がある。
- 用法・用量はない。いつ、どのくらい摂取したらいいのかは未確定。
- 治療にとって代わるものではない。
医薬品・サプリメントと違いは?
- 植物そのものを乾燥・粉砕しているので、成分の純度は低い。
- 添加物は一切使用していないので、保存(吸湿)に注意。
- 栽培時の農薬や、化学物質の残留汚染の影響を防ぐために、オーガニック
の信頼できる商品を選択する。
選別するときの注意として、
- 効果は人を対象としたエビデンスのあるものを選ぶ。動物や試験管内の結果では、
人にあてはめられない。
- 体質や疾病、また服用薬によって、摂取してはいけない人がいるので、慎重に。
- その人の服用薬との相互作用があるものがある。
心配な時は、医師や薬剤師に相談することが大切です。
スーパーフードを治療食に使うメリットは?
- 病気・体調などの目的に合わせた栄養素・有効成分を摂取するための手段として。
- 少量でも必要な栄養素が摂取できる。
- 治療食の見た目をよくする【色・香り・味が豊富なため食欲増進に】。
日本人はジャパニーズスーパーフードを生まれた時から口にしている民族です。
知らず知らずのうちに身体の良い作用をする食品を摂取しているから長寿なのかもしれませんね。
次回はそれぞれのスーパーフードついて話したいと思います。
では今日も1日前向きに!!
69 菜根譚(さいこんたん)
逆境は良薬
渋沢栄一の「論語と算盤」が脚光を浴びるようになりましたが、「論語」は孔子という知恵者が弟子たちに向かって賢明な生き方や学び方や物の見方を語り伝えた人生の指南書ではあるものの、孔子は宗教家でも哲学者でもなく、その後成立した「儒教」の教祖が孔子と思われていることに疑問を呈する見方があります。
「儒教」は思考や信仰の体系であり、その学問的分野に「儒学」があります。
菜根譚は明代末期に優秀な官僚として活躍後、政争に巻き込まれ隠遁したと推測される人物、中国明代の著作家、洪自誠(こう・じせい)が著したものです。
この時代に「官僚」となるためには、「科挙」と言う試験に合格しなければなりませんでした。
家柄や出自に関係なく(18世紀くらいまでのヨーロッパでは、高官は貴族の世襲が当たり前)、ペーパーテストの成績さえよければ高級官僚として登用するというのは、世界的に見ても画期的なことでした。
このペーパーテストに合格するために、儒学を暗記する必要があったのです。
隋の時代に導入されて、最も効果的に機能したのは宋(960年-1279年)の時代と言われていますが、これが1300年以上続いたというのですから、最盛期には3000倍という競争率で、70歳を過ぎてやっと合格した人もあり、その宗族の期待を背負い、あまりの過酷さに精神的に病んだり、受験を断念して失意のあまり自殺する人もいたようです。
受験資格に制限のない「科挙」ではありましたが、科挙に合格するためには幼い頃より労働に従事せず学問に専念できる環境や、膨大な書物の購入費や教師への月謝などの費用が必要で、実際に受験できる者は大半が官僚の子息または富裕階級に限られるようになりました。
中国における高級官僚の地位は、現代の日本のキャリア官僚などに比べると比較にならないくらい強大なもので、古代の中国では伝統的に公金と私財の区別はなく、賄賂も当然のものでした。
官僚は、税や付け届けで集めたお金や供物の中から一定額(一説には、集めたお金のたかだか1%以下と言われています)さえ皇帝に上納すれば、あとは私財とすることが可能でした。
ですからこの試験に合格するということは、一生権力と地位を持ち続けられるわけです。
もともとは優秀な人材を選抜するためのものでしたが、段々と儒教道徳が形骸化し、国の道筋を示すべき政治家や官僚たちが腐敗し、誰もが派閥争いにあけくれ、優れた人材が追い落とされ、ずるがしこい人物だけがとりたてられるようになりました。
そんな時代に生まれた洪自誠(こう・じせい)は、難関の科挙に合格し、優秀な官僚として活躍後、政争に巻き込まれ隠遁したと言われています。
その時書かれたのが、「菜根譚」でした。
「人はよく菜根を咬みえば、すなわち百事をなすべし」という故事に由来。
「堅い菜根をかみしめるように、苦しい境遇に耐えることができれば、人は多くのことを成し遂げることができる」という意味です。
辛酸をなめつくした洪自誠が「人は逆境において真価が試される」という思いをこめてつけたと考えられています。そこには、逆境を経験したからこそ生まれた「生きるヒント」が満ち溢れています。
「逆境」とは読んで字のごとく「逆の境遇」すなわち「上手く行くはずのものごとが、上手く行かない境遇」という意味があります。
人生においてものごとの成り行きが良好ではなく、自分の身の上に苦労が多いこと、また不遇な境遇であることを表します。
ブログ14で、「人生思い通りに行かないもの」に書きましたが、仏教では、人生は生きている限り、欲に終わりはなく、いつも思い通りに行かないものです。
だから知恵が必要になるのです。
ですから、仏教においては、逆境はないのです。
洪自誠が本流から外れて不遇をかこったからこそもちえた冷徹な視点があり、そこから時代を超えた普遍性、鋭い人間洞察が生まれたと中国哲学が専門の湯浅邦弘大阪大学教授は、
菜根譚が時代を超えて読み継がれている理由だといっています。
「逆境は良薬」「逆境は人間を鍛える溶鉱炉」という言葉が出てきますが、「富貴や名声によらない幸福」「欲望をコントロールすることの大切さ」「世俗を超えた普遍的な価値に身をゆだねることの重要性」など、儒教・道教・仏教を融合したと思われる生きる知恵を読むことができます。
私はこの人生においての「普遍的な価値」にとても心惹かれます。
数多い仏教書の中で最も古い聖典である、お釈迦さまの説いた、スッタニパータ(ブッダのことば)が大好きです。
この本を読んでいると、普遍的価値とはどういうことなのかがわかります。
人間はすぐ忘れる、欲に左右される、感情的になる生き物です。
そんな時、この「菜根譚」をバイブルにして読み返してください。
何物にも左右されることのない、普遍的価値を教えてくれることでしょう。
では今日も1日前向きに!!
68 薬剤師あるある(10)
鉄不足
現代人の特に見落としがちな栄養素のひとつに鉄分があります。
鉄欠乏性貧血は、その名の通り、体の中で鉄が不足して起こる病気。
体に貯蔵してあるはずの鉄が失われ、血液中の鉄が不足してしまう。
体内で鉄が不足してしまう原因としては、第一に食事からの鉄の摂取量不足。
第二に妊娠や出産、授乳期や成長が著しい思春期において、鉄分の必要量が増加していることなどがあります。
ところが、貧血がなくても鉄欠乏状態になっていることがあるのです。
貧血とは、血液中のヘモグロビンの量が足りなくなることで起こる症状です。
ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っているため、ヘモグロビン濃度が薄くなれば、当然ながら酸素はうまく体中にいきわたらなくなります。
症状は、めまい・頭痛・疲れやすさを感じたりイライラするなどです。
妊娠中は貧血になりやすいです。
妊婦さんはヘモグロビンの生成に関わる鉄分の多くをお腹の赤ちゃんに吸収されてしまうからです。
鉄分の吸収は赤ちゃんの成長にとっても不可欠なことであり、そのため割合でみると妊娠中の4人に1人の女性が貧血に悩まされやすいとされています。
また女性は男性よりも貧血に陥りやすいという特徴があります。
女性の場合、月経や妊娠によって鉄分を男性よりも多く排出することになるため、女性にとって貧血は関わりの深い疾患の一つといえるでしょう。
胎児もまた鉄欠乏性貧血になります。
産後間もない子供の場合は、母体を通じてたくさんの鉄をもらった状態です。
しかし、その後子供は早いスピードで成長を遂げ、胎内にいたときに摂取した鉄は自然と不足しがちになります。
こういった背景から、乳幼児の子供はときに貧血に陥ることがあるのです。
大人の体内にある鉄は全体で3~5グラムです。
このうち約70%が血液中の赤血球の中でヘモグロビンの一部に組み込まれ、酸素の運搬に役立っています。
古くなった赤血球は食細胞であるマクロファージによって処理されます。
その結果、約25%の鉄が肝臓や脾臓の中で、フェリチンというタンパクにくっついて貯蔵鉄として蓄えられています。
これらの貯蔵鉄は、赤血球が新たに生産されるときに使用されます。
不足した分は、食物中の鉄を必要な量だけ小腸から吸収して補います。
一般に、女性では生理による出血で鉄が失われるため、男性に比べ多量の鉄の摂取が必要になります。
フェリチンとは、鉄を貯蔵する働きを持つタンパク質のことで、肝細胞や脾臓、骨髄など体内に多く分布しています。
成人の血清フェリチン1ng/mlは貯蔵鉄量8~10mgに相当します。
そのため、フェリチン血液検査は鉄の欠乏状態を把握するために有用であると考えられています
鉄欠乏性貧血ではなくても、このフェリチン値のみが低下した状態を潜在的鉄欠乏と言います。これは鉄欠乏性貧血の前兆と考えられます。
鉄欠乏の症状としていくつかあげられます。
・爪のアーチが少ない、割れやすい、やわらかい
・硬い物がかみたくなる【氷、爪、あめ、鉛筆など】
・あざができやすい、乾燥肌、髪の毛が抜けやすい
・注意散漫、集中力がない、落ち着きがない
・のどの不快感、飲みこみにくい、声が小さい
・頭痛、肩こり、耳鳴り、めまい、胃弱、食欲低下
・冷え性、疲れやすい
・生理前の不調、生理痛がひどい
鉄分の多く含まれる食品
・レバー(豚・鶏・牛など)
・赤身肉(馬・牛・子羊・豚など)
・大豆/大豆製品(豆乳・木綿豆腐・納豆など)
・青魚(いわし・さんま・さばなど)
・貝類 卵黄 小松菜 春菊
料理としては、
- ほうれん草や春菊ののお浸し
- ひじきと大豆の煮物
- ささみとひじきのサラダ
- 切り干し大根と牛肉の野菜炒め
- しじみのみそ汁
前回のタンパク質を多く取るための食事とよく似ていると思いませんか?
しっかり摂取して元気な毎日を過ごしましょう。
では、今日も1日前向きに。
67 薬剤師あるある(9)
糖尿病
コロナ禍になって、丸2年以上が経っていますが、おうち時間の増加とともに、糖尿病や痛風、脳卒中(脳梗塞と脳内出血)が激増しています。
このコロナ禍では、病院に行きたくない、検査をすぐにしてもらえないなどの心配事が多くなり、身体の異変を感じつつも受診しない方も多くいらっしゃるように思います。
それに引き換え、TV番組は相変わらず食べ物関係の番組が多く、私など高齢者にとっては全く見たくない番組もたくさんあります。
今は外出することができないのと、番組制作者側の費用も抑えられるのでしょうか、食べ物に関心が集中し、食べ物摂取過剰になりがちです。
約10年くらい前より、駅前の商店街に食べ物屋さんが増えたな~と何となく感じてはいたものの、できてはすぐ消える店がどんどん増えていることが顕著になったのは、コロナ禍になる前の2年くらい前からでした。
私の住んでいる最寄り駅周辺では小さな商店が壊され、大きな一軒家が壊されて、建ち始めた当初はマンションだったのが、今ではワンルームマンションの数が急激に増え、町はすっかり若者の街に姿を変えました。
それと並行して、若者好みの居酒屋や食べ物屋が特に増えたように思います。
私の薬局の近くも大きな一軒家(住宅地なので、一軒が大きい)が壊されて、マンションがどんどん増えて、街の人口が急激に増加しました。
それに連れて来局する患者さんの平均年齢が低下し、サラリーマンや若いサラリーマン家族がどんどん増えているように思います。
またその方々は、家族構成が変わる(増⇔減)と住居を変える傾向があり、知らない間に引っ越していた、なんてことがしょっちゅうあります。
マンションから一軒家へ、一軒家からマンションへ・・・
都内では大きな一軒家に住むことは許されないようです。
昔からいらしたなじみの患者さんは高齢になるにつれて、連れ合いを亡くして一人住まいになったり、子供が独立して家を建てたり、マンションを購入しているためなのか、同居はできないなどの理由により、高齢者一人暮らしの一軒家がたくさんあります。
一軒家暮らしは高齢者にとって維持していくのに困難な問題が多く、自分ひとりでは何もできない状態になってしまうのです。
病気になって初めて子供や周りの方が気付くことが多いです。
そうなると、どうするかと言えば、高齢者を施設なり、コンパクトで安全なバリアフリーの住みやすいマンション(高齢者専用賃貸住宅・サービス付き高齢者賃貸住宅)に移り住むようになります。
昔なら、子供が親を引き取って面倒を見ていたのですが、現代では困難な状況(子ども夫婦が共働きや高齢者自信がそれを望まない)です。
結局、固定資産税の高い大きな一軒家は空き家となり、売ることになるのでしょう。
そしてそれは何個かの住宅やマンションへと姿を変えていきます。
1人しか住んでいなかった場所に何十人、何百人が住むようになり住民数が増加する仕組みです。
というわけで、若い人々が薬局に多く来局するようになりました。
この頃特に目立つのが、糖尿病です。
日本人などのアジア人種は、欧米人に比べて体質的にインスリン分泌の能力が低く、また、腸のまわりに付着して、糖尿病発症リスクを高める内臓脂肪や肝臓、筋肉中にたまる異所性脂肪と呼ばれる危険な脂肪の蓄積が進みやすい体質を持つと言われています。
今や国民病とまで言われているこの糖尿病は、食の欧米化によってもたらされたと言われています。
日本人は農耕民族で、質素な食事をしていたため、インスリン分泌能がもともと弱いと言われていますが、昔の人は白米を中心に食べていたと思われますので、血糖値は今と同じに上昇していたと思われます。
ところが、現代のようにスイッチ1つでなんでもできるわけではなく、毎日相当な重労働を強いられていました。
血糖値が上昇しても、インスリン分泌能が弱くても、身体を使う運動が十分であれば、糖尿病にはなりにくいはずです。
インスリン抵抗性 インスリンが分泌されていても筋肉や肝臓でうまく使われない
肥満は栄養過多な食事により内臓脂肪がたまり、アディポネクチンという動脈硬化を防止する物質が作れなくなり、インスリン抵抗性を強めてしまうのです。
肥満が続くと、膵臓からのインスリン分泌能を弱めてしまうのです。
糖尿病の血液検査には空腹時血糖とHbA1c(ヘモグロビン エーワンシー)があります。
空腹時の血糖値は110mg/dL以上で高値(100~109は正常高値)となります。
ヘモグロビンは血液中の赤血球を構成するタンパク質で、肺で酸素を受け取り全身に酸素を運搬して行き渡らせる働きを担っています。
「ヘモ(ヘム)」は鉄原子を中央に配した構造で、この鉄原子に酸素が結合します。
またヘムが赤い色素であるために血液は赤くなります。
「グロビン」はタンパク質です。
ヘモグロビンは血中の糖とも結びつきやすく、とくにブドウ糖と結びついたものをHbA1cと呼びます。
この値は過去1~2か月の血糖の状態を反映する値とされています。
HbA1cの正常値は4.6〜6.2%ですが、特定保健指導の基準値は5.6%未満です。
現代人は栄養過多な食事に加えて、毎日の生活で身体を使うことがあまりなくなっています。身体を使わないので、食事摂取量を減らせばいいのではないか?と思われがちですが、人間には必要な量の栄養素があります。
現代人は野菜と脂質はたくさん摂取しているものの、たんぱく質と鉄分が不足していると言われています。
タンパク質と言うと、みなさんはすぐに筋肉ムキムキの人達が飲んでいる、プロテインの粉を思い出すかもしれませんが、よほどのたんぱく質不足でない限り、食事で十分に摂取することができます。
卵や肉(どの肉でもよいですが、パン粉をたっぷりつけて油で揚げるものは避ける)、豆腐や納豆など、日本には数々のタンパク質製品があります。
昔は卵をあまり食べすぎると、コレステロールの値が上昇すると言われて、1日1個~2個と言われていましたが、2013年に米国心臓病学会が「コレステロールの摂取制限を設けない」としました。
その2年後、2015年には、米農務省と保健福祉省も、コレステロールの摂取制限をガイドラインから削除しました。
日本でも厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、コレステロールの摂取基準が撤廃されました。
そのいずれの理由も「コレステロール摂取の上限値を算定するのに、十分な科学的根拠が得られなかった」ためでした。
ですから卵は制限なく食べられる良質なタンパク質と言えるでしょう。
また、意外と知られていない鉄分不足ですが、次の話題にすることにします。
では今日も1日前向きに!!
66 薬剤師あるある(8)
アポトーシス(apoptosis)
Official髭男dismの新曲「アポトーシス」を初めて聴いた時は、音楽の複雑さに耳を奪われ、歌詞があまり頭に入りませんでしたが、よくよく聴いてみると、「死」について歌っていることが分かりました。
アポトーシスとは?
個体の組織の成長の過程で、プログラム化された細胞死のことを言います。
自然現象なので、私たちは常にそれを見ているのに、気づかないのではないでしょうか?
ちなみに事故による細胞死のことを壊死(ネクローシス)と言います。
アポトーシスの語源は、ギリシャ語の apo (離れて) ptosis(下降)に由来しているそうです。
自然に枯れて落ちる落ち葉を想像してみてください。
アポトーシスの過程は遺伝子によって制御されていて、生体内の細胞環境のホメオスタシス(恒常性)を維持する重要なメカニズムなのです。
私たちの身体には、体外環境がどんなに変化しても、体内環境を一定に維持しようとする仕組み(ホメオスタシス)がもともと備わっています。
細胞は常にホメオスタシスとアポトーシスを繰り返しながら全体を維持しているのです。
約60兆個の細胞からできている私たち人間は、やはりホメオスタシスとアポトーシスを繰り返しながら生きていると言えますね。
例えば皮膚は約28日周期で入れ替わると言われています。
ところが、脳の神経細胞は、記憶などの機能とつながっているために古くなったからと言って簡単に置き換えることができません。
何十年も生き続けて、死んだらほとんど再生されないそうです。
認知症とは、脳の神経細胞が破壊されて、減少するのですが、決して再生することはないと言われています。
東京理科大学薬学部教授の田沼靖一さんによると、アポトーシスの特徴は「きれいに死ぬこと」だという。
細胞の中身が漏れないのです。
だから炎症が起きず、痛みもありません。
この「きれいに死ぬこと」は、1972年オーストラリアのジョン・カーらが顕微鏡で細胞を観察していて偶然見つけたそうです。
「細胞はもしかして自発的に死んでいるのではないか。これはDNAが指令を出しているのではないか」と考えました。
そしてこれをアポトーシス(apoptosis)と名付けました。
細胞の自発的な死=アポトーシスを観察すると、細胞が死んでいくとき、自らの生命の素であるDNAをきちんと切断していることがわかりました。
とすると、アポトーシスの本質は「DNAを切断して、消去する」ということになります。
すごい!!シュレッダーにかけているのですね。
がんはまさにこのアポトーシスを狂わせてきれいに死ぬどころか、どんどん細胞を増やしてしまう病気です。
またアルツハイマーは反対にものすごいスピードで細胞を死に追いやる病気です。
ですから本来のアポトーシスを思い出させたり、うまく制御したりする薬が必要になります。
人間の細胞分裂は50回程度が限界とされ、これを「ヘイフリック限界」と称します。
分裂ができなくなった細胞はやがて死(アポトーシス)を迎え、これを「細胞老化」と称します。
老化が早い、遅いには個人差があり、まだ良くわかっていないのですが、細胞老化で細胞数が減り、臓器や組織を維持できなくなって人間という個体の死(老衰)に至ると考えられています。
ですから、老衰はとてもきれいな死なのです。
このように人間の死をアポトーシスというメカニズムを通してみると、人間には不老不死はありえないだろうと思われてしようがないのです。
そしてなぜこのようなメカニズムがもともと人間に備わっているのか?を考える時、死があるから生があり、不完全であるからこそ、何とかして生き残ろう、種を存続させようとする力を感じざるを得ません。
以前ブログ14で、人間はなぜ不老不死ではいけないのか?について書きました。
死があるから、今を懸命に生きることができると書きました。
死は必然、生は偶然なのです。
それにしてもOfficial髭男dismの楽曲はいつも心奪われます。
では今日も1日前向きに!!