58 遺伝子情報と倫理(2)
「遺伝子情報でわかること」と「倫理的にできること」
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが自分の遺伝子を調べ、乳がんになりやすい遺伝情報をもつことが分かったため、2013年に乳房を切除したことはまだ記憶に新しいと思います。
遺伝情報から病気のことはどれほど分かるものなのでしょうか?
結論としては、現在、病気や遺伝子によって、医療で利用できるものから研究中のものまで千差万別としか言えません。
遺伝情報から分かる病気のリスクは、病気や遺伝子によって精度が大きく異なる一方で、「遺伝子検査」と名の付くものは数多くあり、病院のみならずテレビ広告でも聞くようにまでなってきました。
検査の「正確さ」をどう見極めればよいのでしょうか?もっとも大きな区別は「保険適用されているかどうか」である。
保険適用されていれば、患者負担が窓口で3割などになり、残りは国の医療費などから負担されるが、これは一定の精度と信頼の有効性があると認められたから、こうなっているのであって、保険適用されていないとなれば、まだ検証が十分ではないということになります。
どんな疾患や体質も、遺伝要因と環境要因が影響します。
遺伝要因がどの程度影響するかも、ものによって違います。
例えば家族性の乳がんですと、遺伝要因がほとんどです。
なかなか環境で防ぐことができない。
ただ、同じがんでも肺がんですと遺伝要因が約10パーセントくらいでして、あとは環境要因です。
喫煙しているかどうかやストレスといった環境要因が大きいと言われています。
その中でも、遺伝子だけで100パーセント発症が決まってしまうような遺伝性の疾患というものがありますが、実はそれは個人向けの遺伝子解析サービスでは扱いません。
これは「技術的にできること」と「倫理的にできること」が異なるということです。
ここで思い出してください。
私たちは結果を聞かないという権利があります。
遺伝子だけで100パーセント決まってしまうものは、その情報を提供することそのものが医療の診断行為になってしまうので、個人向けのサービスでは提供していません。
あくまで環境要因も影響するからこそ、自分で予防の行動ができるものだけを扱っています。
あとは精神疾患も実は扱っていません。
うつ病とか、双極性障害ですとか、統合失調症というものは扱っていません。
これも倫理の問題になってくるのですが、「あなたはうつ病になりやすいですよ」と言われることによって、その結果次第で精神的な負担を受けて、うつ病になってしまうという可能性もあるということが懸念されています。
「技術的にできること」と「倫理的にできること」には違いがあります。
前回でもお話した通り、倫理的問題には答えがありません。
今後、遺伝子情報は技術的には個人が簡単に知ることができるようになるので、リスクを越えてどういうふうにメリットを取っていけるかが重要になると思います。
ですから、自分の遺伝情報を知ることのリスクを理解した上で、遺伝情報に基づいた病気の予防や治療の可能性に注目したいと思います。
また、遺伝子情報による薬の副作用の発現の大小や、患者さんごとの薬の量の調整など、まだまだ遺伝子情報にはいろいろな可能性がありますが、そこには必ず倫理的問題が付きまとうものだということ、遺伝子情報には環境要因の影響が大きいことを忘れないでほしいと思っています。
では今日も1日前向きに!!