57 遺伝子情報と倫理(1)
出生前診断:新型出生前診断(NIPT)
最近、高齢妊娠・高齢出産が増えている中、生まれてくる赤ちゃんの染色体の疾患を心配するカップルも増えています。
出生前診断の倫理的問題については、正解がなく議論が絶えません。
生命倫理の4原則というのがあります。
本来は「出生前に胎児の状態や疾患を調べることで、最適な分娩方法や療育環境を検討すること」が出生前診断の主な目的です。
しかし、出生前診断を受ける多くの人が赤ちゃんを「出産するかどうか」を決めるために出生前診断を受診しているのが実情のようです。
では、一体なぜこのようなことが日本では起こっているのでしょうか?
中絶に関する日本の法規範は、刑法の堕胎罪と母体保護法(旧:優生保護法)が関係しています。
現行の刑法では、母体の状態にのみ言及し、胎児の状態には言及していません。
また、母体保護法では、合法的中絶には、医師の認定、夫の同意、妊娠満 22 週未満という条件を満たす必要があるとされ、事実上、妊娠満 22 週未満という条件しか機能していません。
近年、母体の血液を採取して行うスクリーニング検査(無侵襲的出生前遺伝学的検査、NIPT)が可能になり、話題になりました。
NIPTでは、13トリソミー症候群、18トリソミー症候群、21トリソミー症候群(ダウン症候群)の3つの染色体疾患を発見できます。母体の血液のみを採取するため流産のリスクはなく、「新型出生前診断」として有名になりました。
NIPTは、胎児の命を脅かすおそれはありません。
高齢出産では先天異常のリスクが高まるという情報は広まっているので、軽い気持ちで検査を受けてみようかと考える夫婦もいるかもしれません。
しかし、実際に検査結果が出たときのことを真剣に考えてみると、産むか産まないかの葛藤を避けることはできないでしょう。
法律的に言えば、胎児に先天異常があるとわかった場合、妊娠22週未満であれば、人工妊娠中絶をするという選択肢をとることは可能です。
先に挙げた年間18万件以上の人工妊娠中絶のうち、ほとんどは「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に基づいて行われていますが、この条文の解釈は医師の判断に任せられています。
いまの日本では、人工妊娠中絶をしたいと決めた夫婦は、ほとんどの場合、法的責任を問われることなく中絶手術を行うことができるのが現状です。
しかし、両親が病気や障害をもつ可能性の低い子どもを選ぶこと、いわゆる「命の選別」は果たして許されることなのでしょうか。
事態をさらに複雑にしているのは、「現在妊娠している子を産むかどうか」という問題に加えて「今妊娠している障害のある子と、その子を中絶した後に妊娠するかもしれない健康な可能性のある子とどちらを選択するか」という問題も発生するという点です。
障害のある子ではなく健康な子を選択することは、例えばいま障害をもって生活している人からすれば、差別的な行為にも映るでしょう。
しかし、特に高齢出産の場合、障害をもつ子を自分たちは無事に育てられるのか、幸せにできるのかといった不安を抱くのもまた自然な感情であるようにも思われます。
出生前診断の技術が進歩しつつあることで、このように思い悩む夫婦は更に増えるのではないかと予想できます。
これらの結果があなたとあなたの妊娠にとって何を意味するかを理解するために、かかりつけの医師や遺伝カウンセラー※のような専門家に相談することが重要です。
※がんなどの疾患や先天性の心疾患・障がいなどに悩む患者の相談を受けて、遺伝的な原因の有無を調べ、 遺伝子・染色体検査に関する情報を提供したり、心理的、社会的なサポートを行ったりする仕事のことです。 主に病院や診療所、大学などに勤務して、臨床遺伝専門医との連携により業務にあたります。
遺伝子検査の受検や遺伝子情報の取り扱いには多くの倫理的な課題が含まれるため、正しい知識、メリット及びデメリットの理解が必要だと考えています。
今回は重たい問題について書いてみましたが、みなさんはどうお考えになるでしょうか?
では、明日も1日前向きに!!