95 エナジーム(6)させていただく
「させていただく」気になりませんか?
芸能人の結婚発表の書面で見る、「~さんと結婚させていただくことになりました。」
に、私はちょっと違和感を感じていました。
誰に対していっているのかな?別に誰かの許可なんていらないのに・・・。
なぜ、「結婚することになりました。」と書かないのだろう?
江戸っ子の私は、物事はっきり言わず、歯に衣着せる言い回しが苦手です。
そう、落語に出てくる八つぁん、熊さんの言葉、「わたしら、結婚することになりやした。」 と単刀直入に言う言い回しが大好きです。
結婚させていただく、解散させていただく、芸能界でよく使われることばだと思っていましたが、なんと世間にこんなにもたくさん「させていただく」がブレイクしていたことに、びっくりしています。
飲食は禁止させていただいております
保険証を確認させていただきます
終了させていただきます
ポイントを進呈させていただきます
この「させていただく」はいつ頃から使われたものなのでしょう?
「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ 椎名美智著
を読んで、なぜ今「させていただく」がブレイクしているのかが、わかりました。
「させていただく」は上方(関西)から波及したことばで、浄土真宗(他力本願)の教義上から出たものといわれています。
他力を想定してしか成立しないのです。
おかげさま精神を表しているいい方といえるでしょう。
漫画「サザエさん」には「させていただく」は出てきていないようです。
1946年(昭和21年)に新聞の連載が始まりましたが、1955年(昭和30年)代には東京で使われていたらしいです。
「させていただく」がブレイクしたのは、サザエさんの連載開始から40~50年した1990年代だそうです。
「させていただく」は、させるという使役(許可)、「させて」と「いただく」という恩恵を「て」という助詞で繋げている言葉です。
説明させていただきます、や、受講票を見せていただきます、には、必ず相手がいます。
あなたに説明させていただきます、あなたの受講票を見せていただきます
といったことです。
結婚させていただきます、や、解散させていただきます、には相手はあなたではなく、第三者の場合もありますが、相手がいない場合も考えられます。
どうもあなた、のような相手のいない場合にこの言葉を使うと、違和感を覚えることが分かりました。
別にあなたに結婚していいよ、とか解散していいですよ、なんて許可を与えるわけでもないのに・・・と感じてしまうのです。
国語辞典編纂者の飯間浩明氏は、次のように書いています。
「させていただく」は敬語の欠陥を助けてくれることばで、へりくだった表現ができなくて困ったときの特効薬です。
この敬語の欠陥とは、
「帰る・使う・参加する・変更する」などのように、「お~する」を使って、謙譲語が作れませんので、この動詞に「させていただく」を付けると。
「帰らせていただく・使わせていただく」などのへりくだる言葉が作れるのです。
「させていただく」を平和に(違和感なく)使うためには、次の3つの使用上の注意点があるとのことです。
- 謙譲形のある動詞は、それを使うこと。
- へりくだる必要のないところで使わないこと。
- なるべく繰り返しを避けること。
「させていただく」は、させてという許可、いただくという恩恵を表す、敬意てんこ盛り状態ですで、本来なら相手があっての言葉だったものが、今では他者がいなくても使われるようになってきています。
言葉というのは、社会の変化や人々の意識の変化、日本語の敬語の変化の流れの中で、変わってくるものですが、その結節点が「させていただく」という言葉なのかもしれません。
だからこれから先、また変わっていく可能性があります。
八つぁん、熊さんの下町のように距離感が近い仲間同士で話す言葉と、現代社会のように、人との距離感をほどほどにする社会では、人々は、相手に対して失礼のないように配慮して話すようになったのでしょう。
また、初対面の相手が、どんな出自かわからない時は、敬意にすがって、「させていただきます」を使った方が便利だから普及しているのかもしれません。
最近、「しっかり整わせていただきました。」という言い方があるそうです。
これは、サウナに入ってくつろいだ、という意味ですが、もはや他者の存在はなく、上品に話したいときにも使われています。
「私のブログもおかげさまで1年を迎えさせていただきました。」
と私も便利に使わせていただきます。
では、今日も1日前向きに!!